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東京高等裁判所 昭和34年(ネ)1937号 判決 1960年3月31日

控訴人 大成興業株式会社

被控訴人 石山政夫

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述は、控訴代理人において、「被控訴人及び訴外大出ツヤ、横田アイ三名は、昭和三十三年十二月十八日控訴人との間に、(イ)被控訴人ら三名が連帯して控訴人に金十二万円を昭和三十三年十二月末日までに支払うこと、この場合控訴人は利息を免除すること、(ロ)もつともこの支払方法にかえ、被控訴人らは昭和三十三年十二月末日と昭和三十五年一月末日とに各六万五千円づつ支払うことができる旨の和解が成立した。被控訴人は右和解をなすことによつて、その無権代理人たる三宅哲夫のなした連帯保証債務負担の行為を追認したものである。」と述べ、被控訴代理人において、「控訴人の右主張事実を否認する。被控訴人は連帯債務負担行為並びに執行認諾の意思表示を追認したことはない。執行認諾の意思表示は公証人に対する訴訟法上の法律行為であるから、無権代理人のなした執行認諾の意思表示の追認は、公証人に対してなさるべきものであるから、被控訴人が公証人に対して追認をなさない以上、本件公正証書を債務名義とする強制執行は許されない。」と述べた外、原判決事実摘示記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

証拠として、被控訴代理人は、甲第一、第二号証を提出し、原審証人小川満の証言、原審における原告(被控訴人)の供述を援用し、乙第一号証の一ないし三の成立を否認する、同第二号証の成立は不知と述べ、控訴代理人は、乙第一号証の一ないし三、第二号証を提出し、原審証人小川満、松田閨子の各証言、原審における被告会社(控訴人)代表者三宅三千三尋問の結果を援用し、甲第一号証の成立を認める、同第二号証の成立は不知と述べた。

理由

東京法務局所属公証人保持道信作成にかかる昭和三十二年第六百四十一号金銭消費貸借公正証書に、控訴会社が訴外富沢フミに対し昭和三十二年三月十二日金十二万円を、弁済期同年四月四日、利息年一割八分、期限後の遅延利息日歩九銭八厘の約定で貸し渡し、被控訴人が訴外富沢秀外二名と共に富沢フミの右債務につき連帯保証をなし、かつ右債務を期限に弁済しないときは、直ちに強制執行を受けても異議ないことを受諾した旨、並びに、訴外三宅哲夫が被控訴人外四名の代理人として右公正証書の作成を嘱託した旨の記載あること、控訴会社が昭和三十三年十二月八日右公正証書の執行力ある正本に基き、被控訴人の有する川口局第六、〇九〇番電話加入権につき差押をなしたことはいずれも当事者間に争のないところである。

しかして成立に争のない甲第一号証、原審証人小川満の証言、原審における原告(被控訴人)本人の供述を綜合すれば、被控訴人の代理人として前掲公正証書の作成を嘱託した三宅哲夫が公証人に提出した委任状(乙第一号証の二)中、被控訴人名義の作成部分は、被控訴人の意思に基かないで、何人かが被控訴人の氏名を記載し、その名下に被控訴人の真正な印顆でないものを被控訴人の印顆なりとしてこれを押捺して作成したものであること、右三宅哲夫が公証人に提出した埼玉県川口市長作成名義の被控訴人の印鑑証明書(乙第一号証の三)に被控訴人の印鑑として顕出されていた印影は、かねて被控訴人が川口市役所に届け出ていた印鑑と相違していたにも拘らず、当時川口市役所戸籍課住民登録係として印鑑証明事務を担当していた小川満が印影の相違に気づかないで、これを被控訴人の届出印鑑と相違がないものとして証明し、川口市長名義で作成交付したものであること及び被控訴人は三宅哲夫に公正証書作成嘱託の代理権を与えたことがなかつたことが認められる。

そうだとすれば、前段認定の公正証書は、被控訴人に関する限り無権代理人の嘱託に基いて作成せられたもので、被控訴人に関する限り無効のものというべきである。

控訴人は、被控訴人が昭和三十三年十二月十八日控訴人に対し右無権代理人のなした連帯保証債務を負担する行為を追認したものであると主張しているけれども、前記公正証書上の執行受諾の意思表示は訴訟行為としての性質を有するものであつて、これが追認は公正証書を作成した公証人に対してなされることを要するものというべきであるから、仮に控訴人主張の追認の事実が認められるとしても、右は、無権代理人のなした右強制執行受諾の訴訟行為の追認としての効力を有しないことは明らかである。

それ故、前段認定の公正証書中被控訴人に関する部分の執行力の排除を求める被控訴人の本訴請求は正当であり、従つてこれを認容した原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから、これを棄却し、控訴費用の負担につき民事訴訟法第九十五条、第八十九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 松田二郎 猪俣幸一 沖野威)

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